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「深夜、終電を逃した人たちがぞろぞろと橋を歩いて渡っていく。都内から埼玉の自宅へ帰るんです。仲間のような連帯感が生まれますよ」
笑いながらそう語るのは埼玉県川口市の塾講師、三木譲さん(56)。完成から半世紀以上。東京都北区と川口市をつなぐ、新荒川大橋のことだ。そして真剣な表情になった。「難民と認められない在日外国人が”渡れない橋”でもあります」
川口市は国内最多のクルド人集住地域。難民申請が却下され、無許可で県境を越えることを禁じられた「仮放免」の状態の人が数多くいる。働けず、住民票も健康保険もない。
2022年公開の映画「マイスモールランド」は、埼玉のクルド人一家の難民申請が突然不認定になり、仮放免に突き落とされる物語だ。母は既に亡く、父は入管施設へ。子どもだけが残される。どうやって生きればいいのか―。
作中では、そんな状況の理不尽さをこの橋が象徴する。目の前にあるのに、渡れない。阻むのは人間が勝手につくった透明な壁だ。全長800メートルの平凡な橋が、また違う光景に見えてくる。(出田阿生)
紙面より一部抜粋(2023年10月1日発行 東京新聞朝刊)