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「花便り」。こんな典雅な習慣が、皇居にある。咲き始めた花々の位置が地図に書き入れられ、天皇、皇后両陛下の住まい、御所に毎週届くのだ。両陛下は花便りを手に、毎朝のように吹上御苑や東御苑を散策されるという。
御所のある吹上御苑は、もとは江戸城の庭園だった。昭和初期、日中戦争を機に管理が中止され、庭の植栽と、野鳥が種子を運んだ野生の樹木が共生。タヌキやハクビシンがすむ深い森となった。桜は50種以上。4月の第1週、東屋(あずまや)「観瀑亭(かんばくてい)」前のシダレザクラが満開となった。森が、滝から流れる小川に沿って明るく開けたあたり。ただ一本、女王のように立つ。高さ12メートルほど。八方に優美な枝を垂らし、周囲で、ヤマブキソウやサクラソウなどが色とりどりに咲き乱れる。
植物調査を担当した国立科学博物館名誉研究員近田文弘さん(68)は「ビル一つ見えない深い森を背景にした桜の美しさは、何物にも替え難い」と感嘆する。
この自然を分かち合いたいとの陛下の思いから、吹上の春秋の一般公開が始まり、この5月で4年目。エビネやシライトソウが愛らしい白い花を付ける。陛下の意向で、御所から見学コースに移された野草である。 (臼井康兆)
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