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権現堂堤の桜は、時代に翻弄(ほんろう)されてきた。地域ににぎわいをもたらすことを願い、住民がソメイヨシノを植えたのは1920年ごろ。水運で栄えた権現堂川は、源流となる利根川からの流れが止まり、水がほとんどなくなっていた。堤は、花見の時期には幸手駅から約3キロにわたり人が連なる桜の名所に。しかし終戦直後の45年、「鬼畜米英」の教育を受けてきた住民は、占領軍が訪れるのを恐れて伐採。燃料不足で、まきとして使われた。
49年、再び3000本が植えられたが、60年代の高度成長期にレジャーは多様化し、吸引力は薄れた。堤防沿いに産業団地の開発も進み、桜が1000本まで減った70年代半ば。幸手市の並木克己さん(64)たちが「思い出深い自然を残したい」と、ごみを拾い、菜の花も植えるようになった。96年には、並木さんが理事長となり、NPO法人「幸手権現堂桜堤保存会」が誕生。一時は10万人を切った花見客は、98万人まで回復した。
並木さんらは、老木を接ぎ木で再生する試みも始めた。地元の小学生も春に堤に招く。いくどか途切れた桜堤の歴史。ピンク色と黄色の2色のたすきを、今度はしっかり次世代に渡すつもりだ。 (池田宏之)
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