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春になれば、山の神こと「サの神」が、神霊鎮まるクラ(座)に集う。降臨を知らせる術として、花びらを薄紅色に染め上げる。諸説ある桜の語源の一つ、と伝わる。
数日かけて咲き、満開はわずか、そして散り急ぐ。短く、はかなしと見えて、絶妙なほどほどの寿命も、人の心を引きつけるゆえんだろうか。
一片の花びらに若き命を重ねた時代もあった。「散り際の美学」は強調され、「潔く散れ」。軍靴とどろくにつれ、人は戦場に送られた。
その数、千鳥ケ淵に36万柱、靖国神社に246万柱。「この地の桜は、特別な意味合いを宿す。少しでも長生きさせてやりたい」。10年以上、桜を見守る樹木医、美濃又哲男さん(57)は言う。
生命力たぎるつぼみが膨らみ、はじけ、今年も繚乱(りょうらん)の時を迎えた。夜桜は光に照らされ、都会の森に桜色の点線をつくる。
「万葉」の歌で梅に圧倒されていた桜が「古今集」では逆転。以後、花の営みは、昼夜問わず人をいざなう。今年はどんな人間が来るのやら、と眺めるのは年々歳々同じの花。(木原育子)
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