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隅田川に向けて、長大な屋根が扇のように広がる築地市場。富士山ほど不変な存在ではないものの、街並みが激しく移り変わる都心で、1935(昭和10)年の開場時の姿をそのままとどめてきた。この景色は早ければ今年、見納めとなる。
曲折を経て豊洲への移転日が10月11日に決まった。国内外から多くの人を呼び込んだ「世界一の魚市場」は、移転後まもなく、取り壊しが始まる予定だ。
「築地の文化を築き上げてきた先輩たちに負けないだけの情熱と力を振り絞ってきた」。昨年末、開場日の決定を受けて会見した築地市場協会の伊藤裕康会長は築地とともに歩んだ歴史を振り返り、「築地を離れても豊洲で新しいブランドを築いていかなければならない。われわれにとっては新しいスタートだ」と力を込めた。
市場内に敷き詰められたピンコロ石、迷路に迷い込んだように複雑に連なる仲卸業者の店…。それらの歴史的光景が失われた築地の姿を今は想像できない。でも、築地で磨かれた職人技と連綿と続いてきたきずなといった「見えない遺産」は新市場にも引き継がれていくはずだ。 (神野光伸)
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