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東京湾に注ぐ荒川の流れをさかのぼると、関東平野と隔てられたひし形のくぼ地に行き当たる。埼玉県の秩父盆地だ。1500万〜1700万年前までは湾だったとされ、貴重な堆積層や海の哺乳類の化石が見つかっている。秩父の人々はこの「海の底」で養蚕や機織りに励み、豊かな文化を花開かせてきた。
秩父の文化を象徴するのは「祭り」だ。木筒をロケットのように打ち上げる「龍勢祭」や、荒川に神輿(みこし)を引き入れて水を掛ける「秩父川瀬祭」など、その数は年間300とも400とも。ただ、少子化や若者の流出で担い手が少なくなり、既に途絶えた祭りも少なくない。
日本三大曳山(ひきやま)祭りの一つに数えられる「秩父夜祭」は、秩父最大の祭事だ。12月3日の夜、絢爛豪華(けんらんごうか)な山車が秩父神社から秩父市役所そばのお旅所へと巡行する。「ホーリャイ、ホーリャイ」と声を掛けるはやし手たちに、見物客がカメラのフラッシュを浴びせる。
市文化財保護審議委員長の高橋信一郎(のぶいちろう)さん(80)は話す。「昔の人は、夜祭の市で絹を売り、年貢を納め、借金を返して年を越した。夜祭は秩父の人の生活そのものなんです」
(出来田敬司)
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