商品概要
水面の巣、命芽吹く
東京都町田市野津田町の薬師池で三月二十九日朝、浮巣でひな五羽の子育てに励むカイツブリ。親は小魚と小さなエビを次々に運んだ。時々「ケレケレケレ」と甲高い声で鳴いた。風で散った桜の花びらが浮かび、水鏡に映る光景も印象的だ。散歩を楽しむ人たちも「かわいいなあ。もう大きくなった」などと声を掛け合っていた。のどかな公園の池で春の息吹を感じた。
カイツブリは留鳥として池や沼、湖などに生息するカイツブリ科。全長二六センチ。足指にあるひれ状の弁が特徴で、潜水が巧みだ。ヨシやヒシなど水草の葉や茎などで浮巣をつくり繁殖する。別名は鳰(にお)で、「五月雨に鳰の浮巣を見にゆかん」という芭蕉の句は有名だ。埼玉県三郷(みさと)市の鳥、滋賀県の県鳥になっている。
地元の野鳥愛好家は「昨年は四回も繁殖した。今年も同じ親なので期待したい」と話す。ひなを育てる餌が豊富なのだろう。今回は一回目で三月二十四日前後に誕生したという。池にほかのカイツブリが侵入した時は、激しく追い払っていた。
撮影から六日後、再び訪れた。公園の桜は見ごろを迎え、花見客も多い。早朝は肌寒く、ひなは浮巣で親の翼の中で休んでいた。午前十時すぎに突然、ひな五羽が浮巣を出て泳ぎ始めた。親は後を追い掛けて餌を渡す。約三十分後、ひな一羽は疲れたのか、親の背中に乗った。かわいい光景に、花見客など約三十人が集まり、熱心に見入っていた。巣に戻ったのは約一時間後。親は再び、翼の中にひなを入れて温めた。
平成最後の春、カイツブリの親子に心癒やされた。次回は花いかだの鳰の浮巣を撮りたい。 (堀内洋助)
紙面より一部抜粋(2019年4月11日発行 東京新聞)
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