商品概要
水鏡 朝焼けに酔う
茨城県筑西市の母子島(はこじま)遊水地で十月二十九日の夜明け前、笠(かさ)雲をまとった秀麗な筑波山に出合った。水面に映る「逆さ筑波」の幻想的な光景。地平線に朝焼けが広がり、池に川霧が漂った。優美な稜線(りょうせん)は富士山を彷彿(ほうふつ)させた。秋の朝のひとときの絶景に心打たれた。この一枚を撮影した約一時間後には、山頂から太陽が出る「ダイヤモンド筑波」を撮る予定だった。大勢の写真愛好家や見物客とともにその時を待った。午前六時前、雲が厚く広がり、太陽は予定より十分ほど遅れて笠雲の上から出た。水面にも光り輝いたが、太陽が山頂に重ならず、ダイヤモンド筑波とはならなかった。筑波山は標高八七七メートル。最も標高が低い日本百名山で知られる。筑波山神社の境内地で、関東では「西に富士、東に筑波」と並び称されるほど美しい山だ。ダイヤモンド筑波を撮影する機会は、毎年十月二十八日前後と二月十四日前後の二回ある。市観光振興課によると、今秋は十月二十五日からの一週間で、約二千人の写真愛好家と見物客が訪れたという。一番の見ごろの二十八日は約千二百人が集まり、午前二時ごろには三脚を立てる場所が満杯になるほど。昨年秋は百五十人、三年前は二十人しかいなかったが、ここ数年で人気が急上昇した。今回は四日間も通ったが、残念ながらダイヤモンド筑波は見られなかった。秋は雲が発生しやすいためだが、逆にその雲が描く風景に感動させられた。来年も訪れたいと思った。
紙面より一部抜粋(2018年11月9日発行 東京新聞)
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