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きずなは再び舞う
群馬県館林市大島町の農耕地で十月二十八日、刈り田から飛び立つコウノトリ「きずな」。秋の田園を悠然と飛ぶ姿にしばし目を奪われた。ツルと見間違うほどの上品さ。その後、秋晴れの空にゆっくりと円を描きながら上昇し、視界から消えた。印象的な光景だった。きずなはコウノトリの野生復帰に取り組む千葉県野田市が、二〇一六年六月に放鳥した二歳の雄だ。今年三月に誕生し六月に放鳥された雌の「きらら」と、きずなと同じ日に放鳥された雄「ひかる」の三羽がこの秋、館林市内に飛来した。珍しい出来事だ。野田市が三年前に放鳥を始めて以来、九羽が放鳥された。二羽は死んだが、他は徳島、愛知、静岡、千葉の各県に暮らす。コウノトリは全長約一メートル、翼を広げると約二メートルになる大型の鳥だ。かつて全国に分布していたが、一九七一年に野生では絶滅した。人工繁殖の努力が続けられ、兵庫県豊岡市の「コウノトリの郷公園」が二〇〇五年九月から放鳥を開始し、現在百四十六羽が日本の空を舞う。「三日の昼すぎ、コウノトリ三羽が渡良瀬遊水地を飛んだ」と鳥仲間から連絡をもらった。四日朝に現地を訪れると、栃木県小山市が設置した人工巣塔周辺の池で、きずなだけが確認できた。採餌を終えて巣塔に上がり、巣材のヨシをくちばしで動かした。数時間後、館林市方面に飛んだ。この巣塔でいつか子育てが行われる日々を期待したい。
紙面より一部抜粋(2018年11月8日発行 東京新聞)
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