商品概要
サルとアーチ共演
「めがね橋」の通称で親しまれる碓氷(うすい)第三橋梁(きょうりょう)(群馬県安中市松井田町)を七月下旬、訪れた。標高は約五八〇メートル。早朝、碓氷川に架かるれんが造り四連アーチ橋の美に圧倒された。旧国道18号から見ていると偶然、ニホンザル数匹が現れた。一匹が橋の手すりを歩いた時、交差させた手足にアーチのような空間ができた。本物のアーチ橋と共演する一瞬の光景に心奪われた。めがね橋は旧信越線の鉄道橋で、国の重要文化財に指定されている。一八九二(明治二十五)年に完成し、横川-軽井沢・碓氷峠越えの急勾配を走るアプト式鉄道を支えた。一九六三(昭和三十八)年、新線開通に伴い惜しくも廃線に。長さ九十一メートル、高さ三十一メートルの橋にはれんが約二百万個が使われたという。廃線から五十五年。今は遊歩道「アプトの道」として整備され、大勢の行楽客や鉄道ファンが訪れる。めがね橋から、麓の温泉施設「峠の湯」まで約二キロを散策した。トンネルに入るとひんやりして心地いい。照明(午後六時消灯)もある。鉄道トンネルを歩けるのは廃線跡ならではの楽しみだ。帰りは、かつて国鉄で最も急勾配だった66・7パーミルを登ることに。かなりの傾斜だ。当初はわくわくしていたが、数百メートルでしんどくなった。機関車を連結して、ラックレールとピニオンギアをかみ合わせたアプト式が使われた時代を少し実感できた。翌日は鉄道のテーマパーク「碓氷峠鉄道文化むら」のトロッコ列車で、台風接近による大雨の中、横川-峠の湯を往復した。車掌は「サルに出合うと翌日は雨になる」という地元の言い伝えを話した。本当に驚いた。この夏、碓氷峠で体験した、いい思い出だ。
紙面より一部抜粋(2018年8月10日発行 東京新聞)
注意事項