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日は落ちて テールランプと一番星
梅雨の晴れ間が広がった1日、高須の棚田(高知県土佐町)を訪れた。急斜面に曲線を描いて段々に連なる水田が印象的だ。日没後、夕闇に水面が反射して輝いた。一番星が水鏡に映る光景も。その時、薄暗い棚田の中に、光の道が現れた。撮影を終えた写真愛好家の車数台が一斉に棚田の道を下った時、ブレーキをかけるのでランプが明るく点灯し、棚田に赤い光跡を描いたのだ。思いがけない幻想的なプレゼントに感動した。土佐町は四国のほぼ中央に位置する。町の面積の約85%は山林だ。この町は吉野川の最上流部で棚田が多い。高須の棚田は標高約300メートルから約600メートルの間にある。山の清らかな湧水が急斜面に沿って田を潤す。田の水は冷たく、オタマジャクシや小魚、水生昆虫などが数多く生息していた。ここで作られる米は「相川米」と呼ばれ、県を代表するブランドの一つ。棚田のある風景はフォトジェニックだ。特に、田植えの時期は、日没後に、空の色や輝きが水面を彩ってくれる。その薄明の時間帯を「マジックアワー」とカメラマンは呼び、芸術的写真を好んで撮影する。この日のマジックアワーに、写真愛好家が5人も来ていた。高知県と徳島県など4人と横浜から1人。初夏のころ、夕日が正面に沈むので、棚田の水鏡が色を染めてくれるのだ。残念ながら、夕焼けは期待外れだったが、光の道が撮影できた。翌朝も再び訪れた。山霧が谷間に流れて神々しい光景が見られた。掲載する写真は光の道か山霧かで迷った。ともに気に入った作品だが、想定外の一枚が撮れた光の道を選んだ。
紙面より一部抜粋(2018年6月14日発行 東京中日スポーツ)
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