商品概要
薄紅に照り映え水鏡
千葉県市原市の小湊鉄道飯給(いたぶ)駅付近で一日、田んぼの水鏡に映る列車と桜(ソメイヨシノ)を撮影した。ライトアップされた桜と水面の花いかだは幻想的だ。里山に警笛を鳴らして列車が出発すると、ホームのベンチに座る二人が見えた。夜桜見物の特等席だ。郷愁を感じるのどかな駅の雰囲気に心から魅了された。小湊鉄道は五井(ごい)駅から上総(かずさ)中野駅まで三九・一キロを結ぶ非電化の私鉄ローカル線。飯給駅は一九二六(大正十五)年九月に開業し今年で九十二年を迎える。この二本の桜は半世紀前に昔の駅長さんらが植えたという。今、桜は多くの鉄道ファンや観光客を集めるようになった。駅は五六年から無人駅に。そばには市原市が、約二百平方メートルの敷地にぽつんと立つアート作品のトイレを設置した。女性専用で定員一人。無料だ。インスタ映えと鉄道写真が融合して全国的に有名になった飯給駅。この一枚を撮る時、田んぼの周りに約七十台を超えるカメラの放列があった。列車が通り過ぎると、皆さん満足そうな笑みを浮かべていた。昨年秋の本紙主催「ほっとフォトコンテスト2017」では、読者の浅井和範さんが撮影した夜桜と駅、列車の写真が最優秀賞に輝いた。題名は「飯給駅の春」。素晴らしい一枚だった。毎年春、首都圏から多くの写真愛好家が集う。小湊鉄道によると、水が張られた田とライトアップは十年ほど前からという。今年は桜の満開が例年より約一週間早く、残念ながら今は葉桜になりライトアップは終了した。新緑の季節に、首都圏では珍しい気動車や里山トロッコ列車に乗って、再び飯給駅を訪れてみたい。
紙面より一部抜粋(2018年4月11日発行 東京新聞)
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