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黄葉と樹霜の共演
栃木県日光市の小田代原で十月下旬、秋と冬が共演する光景に出合った。厳寒の朝、黄金色に輝くカラマツと白く輝く樹霜。草原も霜で真っ白で、まるで一幅の絵のようだった。赤沼茶屋近くから低公害バスに乗り、撮影場所には夜明け前に着いていた。シカが「ヒューン」と哀愁を帯びた声で鳴いた。約一時間後、闇が消え、びょうぶのように絶景が広がった。小田代原は戦場ケ原の西側に位置する湿原だ。標高は約千四百メートル余。十二年前、国際的に重要な湿地を保護するラムサール条約に登録された。「貴婦人」と呼ばれるシラカンバの木が有名で、全国から多くの写真愛好家が集う。今月五日にも再び訪れた。午前四時半、始発の低公害バスはカメラマンで超満員。運転手が「奥に少しでも詰めてください」とお願いするほどだった。残念ながら、小田代原は三脚が倒れるほどの強風で、時々粉雪も舞った。カラマツ黄葉は散り、曇り空。百人を超えるカメラマンは半数以上が、夜明けを待たずに、帰りのバスで引き揚げた。その時、雲の切れ間から朝の光が差し、淡い朱色の帯が湿原の周辺を照らした。幻想的な光景に歓声が上がった。二度とも心に残る写真が撮れた。今回は黄葉と樹霜の一枚を選んだ。念願の光景だった。
紙面より一部抜粋(2017年11月8日発行 東京新聞、2017年11月9日発行 東京中日スポーツ)
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