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氷の海、一瞬のオホーツク
「東京湾が凍っている」。近くで驚きの声が聞こえた。1月24日の早朝、千葉県木更津市の久津間(くづま)海岸の堤防で夜明けの富士山を撮影していた時だった。蜃気楼(しんきろう)も出現していた。撮影ポイントに入ったのは、まだ暗い夜明け前。海岸は気にしておらず、まさかと思った。海を見ると、約300メートル先の江川海岸までの間、陸から10〜50メートルほどの幅で真っ白に氷結していた。
あわてて、幅広く凍っている江川海岸に向かった。神秘的な光景に鼓動が高鳴る。北海道オホーツク沿岸の冬の海のようだ。雪化粧した富士山と丹沢山地が横浜市街の後方にくっきりと望める。地元の写真愛好家たちも感動して、盛んにシャッターを押していた。
ほぼ毎日、両海岸周辺で自然観察をしている男性は「10数年間で3、4回しか見ていない」。久津間漁協の関係者が「『しが』と呼ぶ自然現象で、温暖化が進んでいるので、近年は極めて珍しくなった」と説明してくれた。「しが」を辞書で引くと、(東北地方で)氷や「つらら」のこと-とある。
両海岸は、東京湾最大の盤洲(ばんず)干潟の一角で、小櫃川(おびつがわ)からの淡水が入る汽水域になる。凍るには厳しい冷え込みと干潮で潮が引いていることが条件という。この日は今冬一番の寒さで、千葉県館山市で氷点下4・1度、木更津市で同1・5度を記録した。
撮影から数時間後、潮が満ち始めて氷が海水に覆われた。海面に浮かんだ氷がシャーベット状になって溶けてゆく。沖の干潟では、越冬するハマシギ数10羽が盛んに餌を捕っている。近くには海に電柱が並ぶ有名な撮影スポットもある。「一期一会一瞬」の絶景を求める旅は続く。
紙面より一部抜粋(2017/02/03発行 東京新聞、2017/02/09発行 東京中日スポーツ)
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