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満天の星と山霧に集落輝く
「ゴロスケ ゴッホー」と鳴くフクロウの声が厳冬の山里に響いた。日の出まで約2時間。まるでプラネタリウムにいるような満天の星。都会では見られない絶景だ。時々、山霧が漂い斜面に点在する集落の灯(あか)りに輝いた。神秘的な光景に身も心も洗われる思いになった。
仕事始めの4日、四国の奥深い山里、徳島県三好市東祖谷(いや)の落合集落を訪れた。江戸時代中期から昭和に建てられた民家や石垣、畑などが山の急斜面に広がる。平成17年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、有名になった。
この山村風景は「日本のマチュピチュ」を連想させる。近年は観光客が増え、向かいの展望所には立派なトイレが造られた。「昔、屋島の戦いで敗れた平家の落人が隠れ住んだという伝説も残る」と案内板にあった。集落の高低差は300メートルを超える。東京タワーの高さに匹敵。一番上の家は標高860メートル。下の国道付近は550メートル。昔の人は急傾斜地に集落をよくぞつくったと感心する。
同集落の下流には有名な祖谷渓がある。岐阜県の白川郷と宮崎県の椎葉村とともに日本三大秘境の一つとされる。祖谷渓は吉野川の支流祖谷川にあり、約10キロの深いV字谷が続く。国の重要有形民俗文化財に指定された「かずら橋」が秘境のシンボルだ。シラクチカズラの植物で編んだ橋はゆらゆらと揺れ、心癒やされた。
深山幽谷の言葉が似合う冬の祖谷渓と落合集落だった。四季の中では新緑のころが一番美しいという。また、訪れたい。
紙面より一部抜粋(2017年1月26日発行 東京中日スポーツ)
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