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月が描く湖面の山影
猛暑の都会を離れ、群馬県高崎市の榛名(はるな)湖を7月30日に訪れた。標高1,084メートル。中禅寺湖(栃木県)に次ぎ、日本で二番目に高い場所にある湖だ。水面を吹く風が心地よい。
夜明けまで時間がある午前2時半ごろ、榛名富士(標高1,391メートル)の山頂から月が昇った。20秒露光しているため写真では丸く見えるが、右側が大きく欠け、左側が三日月のような有明の月だ。月の光に山が照らされ、その影が湖面にほんのりと出現した。月の光、湖畔の宿の明かりも水鏡に映し出される。満天の星。山の稜線(りょうせん)に、流れ星が落ちていった。
湖と榛名富士が共演する「逆さ富士」の幻想的な姿は、富士五湖の河口湖、山中湖(いずれも山梨県)と富士山が織りなす光景のようだ。全国には「富士」の名をいただく「ふるさと富士」が350以上あるとされる。中でも榛名富士は、規模こそ小さいが秀麗な姿が本物によく似ている。
榛名湖周辺の複数の火山を総称して榛名山といい、榛名富士はその中央火口丘。山頂までは徒歩約45分、ロープウエーだと約3分。運がよければ、東京スカイツリーと富士山が山頂の展望台から望めるが、この日は視界が悪かった。正午の気温は22度。都心と比べ10度も低く、さわやかだ。
山頂には榛名富士山神社がある。夏の雲を撮っていると、「思い出の場所に30年ぶりに来た」という80代の夫婦に記念写真の撮影を頼まれた。「新聞社のカメラマン」とあいさつすると、「よく写ってる。宝物だ」と喜んでくれた。心がほっこりした。
紙面より一部抜粋(2016年8月5日発行 東京新聞)
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