商品概要
夜明け待つ春の田
千葉県鴨川市の大山千枚田(おおやませんまいだ)は、都心から最も近い棚田として知られる。広さ約4ヘクタールの里山の急斜面に大小375枚の田んぼが連なる。田植え前の水がある春の景観は、日本の原風景のひとつだ。
夜明け前、一望する展望広場でカメラを構えた。「ゴロッケ、ゴッホォー」「ゲロゲロゲロ」。フクロウとカエルの大合唱が協奏曲のように響く。暗闇から日の出へ、刻々と空の色が変化する。水面(みなも)に映る朝の空を狙った。
30秒露光でシャッターを開いた時、山道を車が通り過ぎた。ヘッドライトが森を照らし、偶然、幻想的な光景が浮かんだ。
農林水産省が選定した日本の棚田百選のひとつ。河川やため池が水源でなく、雨水だけで耕作する「天水田(てんすいでん)」で、全国的に珍しい。
運営するのは、NPO法人「大山千枚田保存会」。棚田オーナー制度を導入し、農業体験などを通じた地域活性化に取り組む。現在、オーナーは136組で、大型連休に田植えを終えた。
広場に天皇陛下の歌碑が立つ。
刈り終へし棚田に稲葉青く茂り
あぜのなだりに彼岸花咲く
2010年9月、国体で千葉を訪れた際に千枚田を視察、風景に感動して詠まれた。駐車場近くにあり、行楽客が見入っていた。
日が昇り、野鳥の声は「ホーホケキョ」のウグイスに。水ぬるむ田んぼに朝の光が反射して輝いた。白い雲も水面に映る。自然と人間の営みが築いた景観に郷愁を感じた。
紙面より一部抜粋(2016/04/22発行 東京新聞、2016/05/13発行 東京中日スポーツ)
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