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渓谷をぬける涼風
「涼しい〜」。観光客が思わず歓声を上げた。尾瀬からの冷たい水が、片品川の渓谷を流れて落下する。滝つぼから吹く風が心地いい。天然のドライミストだ。猛暑が続く平地とは別世界で、涼を求めてやってくる人が絶えない。
群馬県沼田市の吹割(ふきわれ)の滝。滝の高さ七メートル、幅三十メートルで、河床は約九百万年前の火山噴火で発生した火砕流が固まった岩だ。川の流れが岩の軟らかい部分を浸食、多数の割れ目が生じ、やがて滝の姿になった。案内板には、「しぶきが滝つぼより吹き上げる様子からこの名が付いた」とある。一九三六年に、国の天然記念物、名勝に指定された。
「滝に虹が出た時、祈ると願いがかなう」。地元の方に言われ、長い間待ち続けたが、虹を見ることはできなかった。雨が少なく、水量が減少していたためかもしれない。
その代わり、滝つぼの上で、カワガラスとキセキレイの親子が、餌の水生昆虫を求めて飛び交っていた。それぞれ、幼鳥に餌を捕る方法を教えているようだ。尾羽(おばね)を上下に振る動作が愛らしい。無数の赤トンボが上空に飛来し、タカの仲間のノスリも現れた。自然のドラマに魅了される。
周辺には約二キロの遊歩道が整備され、雄大な渓谷美を散策できるが、六月二十五日から落石のため滝から上流の川沿い数百メートルが通行禁止に。「開通の見通しは立たない」と市役所利根支所。回り道ルートで歩いた。滝付近には安全のため白いラインとロープが引かれ、滝つぼの中がのぞけなかったのが残念だった。
帰りに、近くの日帰り温泉「しゃくなげの湯」に立ち寄った。源泉100%掛け流しで、露天のお湯に癒やされる。真夏の青空の下、山の緑に、せみ時雨がいつまでも響いていた。
紙面より一部抜粋(2015年8月11日発行 東京新聞)
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