商品概要
アプトの汽車は星になった
「めがね橋」の通称で親しまれる碓氷第三橋梁(群馬県安中市松井田町)に1日、訪れた。標高は約580メートル。碓氷川にかかるレンガ造り四連アーチ橋の美に圧倒された。まるで古代ローマの水道橋のようだ。
日が沈み、満天の星が現れた。天然のプラネタリウムのように美しい。右から2番目のアーチのすぐ上に北極星が見られた。星は北極星を中心に反時計回りに日周運動する。北極星から離れるほど、星の光跡は長い孤を描く。春の夜、橋と星のアーチの共演に魅了された。
めがね橋は旧信越本線の鉄道橋で、国の重要文化財に指定されている。1892(明治25)年に完成し、横川-軽井沢・碓氷峠越えの急勾配を走るアプト式鉄道を支えた。1963(昭和38)年、新線開通に伴い惜しくも廃線に。長さ91メートル、高さ31メートルの橋にはレンガ約二百万個が使われたという。
廃線から55年半。今では、線路跡が遊歩道「アプトの道」として整備され、大勢の行楽客や鉄道ファンが訪れる。昼間、めがね橋から熊ノ平まで約1・2キロを散策した。かつて国鉄で最も急勾配だった66・7‰(パーミル)を登ることに。かなりの傾斜だ。機関車を連結して、ラックレールとピニオンギアをかみ合わせたアプト式が使われた時代を少し実感できた。
翌朝、本紙に「舞踏家花柳幻舟さん(77)が2月28日夕、めがね橋の下で倒れているのが見つかり、病院で死亡が確認された」との記事が掲載された。橋の上から写真を撮影中に誤って転落したという。私が訪れた前日の出来事に驚いた。謹んでご冥福をお祈りします。合掌。
紙面より一部抜粋(2019年3月14日発行 東京中日スポーツ)
注意事項