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寒夜、暁を待つ静寂
埼玉県飯能(はんのう)市の関八州見晴台を二十五日、訪れた。夕暮れになり、約六十キロ離れた東京スカイツリーと超高層ビル群がくっきりと望めた。乾燥して北風が強い冬ならではの光景だ。ビルと街明かりがともり始めると関東平野がイルミネーションの帯のように輝きだした。宝石をちりばめたように美しく、「百万ドルの夜景」をほうふつさせる。緑の回廊などの暗い部分は都心に近づくほど減った。厳冬の夜の絶景に魅せられた。
関八州見晴台は、奥武蔵の標高七七一メートルにある高台だ。高山不動尊の奥の院が鎮座する。その名は関東八州が見渡せることに由来する。八州とは江戸時代の安房(あわ)と下総(しもうさ)、上総(かずさ)、相模、武蔵、常陸(ひたち)、下野(しもつけ)、上野(こうずけ)の八カ国の呼び名。現在の一都六県に当たる。
この日は東京スカイツリーの奥に東京湾が細い川のように見えた。京葉工業地帯の煙突や横浜ベイブリッジ、ランドマークタワーなども。富士山と丹沢山、筑波山、男体山など関東平野を取り囲む山々も美しい。夜明け前、黒山三滝から男性のハイカーが登ってきた。「二時間かかったが、山頂で見る日の出は自分へのごほうびだ」と笑顔。人気のハイキングコースの一つだ。
昼間は見晴台近くの高山不動尊を参拝した。成田不動、高幡不動とともに関東三不動とされる真言宗の寺院は、六五四年創建で千三百六十年以上の歴史を誇る。冬の山深い静かな境内を歩くと心が癒やされた。本堂付近から振り返ると正面に富士山の山頂付近だけ見られた。少しだけだが、実に神々しい。新緑のころ、東京スカイツリーと富士山を見に再び訪れたいと思った。 (堀内洋助)
紙面より一部抜粋(2019年1月30日発行 東京新聞)
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