商品概要
待ち続け 瞬時の狩り
夏鳥のササゴイが、目の前を泳ぐ淡水魚のオイカワを一瞬で捕らえた。水しぶきが飛び散る。オイカワは雄で、繁殖期のため「婚姻色」となり、体の一部が鮮やかな赤に染まっている。厳しい暑さの中、食うもの、食われるものの野生のドラマが展開されていた。
七月下旬、埼玉県狭山(さやま)市の入間(いるま)川の護岸で、五十人を超える野鳥ファンと一緒にカメラを構えた。夏空の下、ササゴイが子育てに励む季節。親鳥がひなに与える魚を捕食する瞬間を撮影しようと、皆が二十メートルほど離れた場所から狙っていた。魚が印象的な婚姻色になる時季は限られている。散歩する近所の人は「近ごろ他県のナンバーの車も目立つね」と言う。
草が茂った広い中州に狭い川幅。下流にある広瀬橋近くのヤナギ林に、ササゴイの小さなコロニーがある。その数は十羽以上。水辺で魚を捕り、何回も巣との間を行き来していた。
ササゴイは夏に渡来するサギの仲間で、全長五二センチ。羽の縁が白く、ササの葉のように見えるのがその名の由来という。シラサギ類より数が少なく、人気がある。
ユニークなのは魚の捕り方だ。数十分も浅瀬の石の上で待ち伏せし、岩のように動かない。野鳥撮影の仲間は「トンボが頭の上で一休みした」と驚いた。
撮影する側も動けない。根比べに負け、目を離した瞬間、狩りが終わっていたなんてことも多い。こちらも、ササゴイの心境にならないといけないのだろう。
紙面より一部抜粋(2016年8月4日発行 東京新聞)
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