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アトリの"花"満開
冬木立の枯れ枝に止まるアトリの大群。まるで花が咲いたような不思議な光景に驚いた。姿は黒と白、だいだい色で鮮やか。漢字は「花鶏」と書く。昔の人も花のように見えたのだろう。生涯で一度の珍しい絶景にカメラを持つ手が震えた。
場所は栃木県鹿沼市大和田町の農耕地で2月15日に撮影。アトリの大群が1月中旬から飛来し、10万羽以上に増えた。群れの光景は圧巻で、田んぼから一斉に飛び立つ際、まるで竜巻のような黒い帯に。ヒチコックの映画「鳥」のワンシーンのようだ。この地区は昨年9月の水害で黒川が氾濫し、大きな被害を受けた。刈り取られずに残った稲穂が餌になった。
アトリは冬鳥としてシベリアなどから渡来。全長は16センチでスズメより少し大きい。渡来数が多い年は、数十万羽の群れを作るという。この冬は宮城県と福島県からも大群の知らせを聞いた。アトリの当たり年のようだ。珍しい光景を一目見ようと、大勢の野鳥ファンが集まった。70代のベテラン野鳥愛好家は「関東では初めて見る」と興奮していた。
人も集まるが、鳥を捕食する猛きん類のハヤブサやオオタカ、ハイタカ、チョウゲンボウも集まった。枝で休む群れを狙い、その都度アトリは空を黒く染めた。
残念ながら2月24日、大群は消えた。水害の復旧工事が再開され、重機に驚いたのだろう。今月初め、数百羽が戻ったが、枯れ木を埋め尽くした群れと比べると少ない。春の夢のようなアトリの絶景だった。
紙面より一部抜粋(2016年3月11日発行 東京中日スポーツ)
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